和水町ASMR ~梅雨の朝、水たまり、犬、そして長靴の音~
目的
熊本県和水町の魅力を、「音」という感覚を通じて伝えることを目的とした実験的映像作品。単なる風景の記録ではなく、視聴者が「物語」として没入できる体験の創出を目指した。
映像設計
高ダイナミックレンジ収録: 録音技術を駆使し、デジタルクリッピングを原理的に排除。繊細な雨垂れの音から、車の走行音や足音といった突発的な大音量まで、あらゆる音情報をロスなく収録した。
イマーシブな音場創出: 低いポジションでのステレオ録音を徹底。これは犬の聴覚を疑似体験させると同時に、地面からの反響音を豊かに捉え、視聴者を包み込むような没入感を生み出すための設計である。
ポストプロダクション: 当初課題として捉えられた「長靴の大きな足音」を、あえて主役のリズムとして扱う演出を施した。コンプレッサーのアタックタイムを調整し、音の立ち上がりの質感を保ちつつ、リミッターで最終的な聴感をコントロール。これにより、単なる環境音ではない、歩行という「体験」そのものを伝えることを目指した。
映像設計(ビジュアルデザイン) 犬の目線に近いローアングルからの撮影に徹することで、人間が普段見過ごしている風景のディテールを切り取った。また、下を向き続ける主観映像とは異なり、進行方向が見える構図を維持することで、没入感を保ちつつも画面酔いを抑制する効果を狙っている。
動画構成
本作では、意図的にナレーター(制作者自身)が犬に話しかける声を断片的に残している。これは「作業用BGM」としての純度を下げうる要素だが、本作ではむしろ、この散歩が「本物」であるというドキュメンタリー性を担保し、人間と動物との間に流れる温かい空気感(あんの散歩に私が着いて行くスタイル)を伝えるための重要な演出と判断した。これにより、単なる環境音ASMRではなく、物語性を含むハイブリッドな作品としての着地を目指した。
ASMRとは?
ASMRは Autonomous Sensory Meridian Response の頭文字をとった言葉で、「自律感覚絶頂反応」と訳されます。簡単に言うと、「特定の音や映像の刺激によって引き起こされる、脳がゾクゾクするような、心地よい感覚や反応」そのものを指します。つまり、ASMRとは技法ではなく、人が感じる「現象や感覚の名前」です。ASMRにも多数種類があります。
- トリガー型(硬いものをたたく音、紙をまとめる音、液体をそそぐ音、タイピングの音)
- 環境系(雨音、焚火、波、川、森のざわめき、足音、カフェの雑踏、図書室、料理)
- 疑似体験型(シャンプー、耳掃除、エステ、マッサージ、脳神経外科検査)
- 接客ロープレ型(図書室の司書、服屋の店員、ホテルのチェックイン、バーテンダー)